【ニュース まとめ】はるさめ君にゅーす!

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野球賭博の福田選手、MLBなら1年間の出場停止

 

最悪のタイミングで起こった最悪の出来事

事の概要は既に多くの方がご存知だと思いますが、読売ジャイアンツは9月5日、同球団に所属する福田聡志投手が野球賭博行為に関与していた疑いがあると発表し、日本プロフェッショナル野球組織NPB)の熊崎勝彦コミッショナーに告発しました。同コミッショナーは同日付で常設の調査委員会に調査を委嘱したことを明らかにしました。

これからクライマックスシリーズが始まる矢先だった球界に激震が走ったのは言うに及ばず、2020年に開催される東京五輪の大会組織委員会が追加種目として国際オリンピック委員会IOC)に野球の競技復帰を推薦しており、こうした動きに悪影響が出ることが懸念されます。折しも、国際サッカー連盟FIFA)で幹部による大規模な汚職事件が起こっており、IOCも関係者の綱紀粛正や競技の高潔性の確保には神経をとがらせていたところでしょう。

野球関係者にとっては、まさに最悪のタイミングで最悪の出来事が起きたと言えるでしょう。事の是非は置いておいて、新国立競技場の建設費の財源の一部として当てにされていたスポーツ振興くじtoto)のプロ野球への拡大にもブレーキがかかるのは間違いありません。

「結果の予測不確実性」(誰が勝つのか分からないこと)が最大の楽しみの1つであるスポーツにおいて、八百長行為を誘発する野球賭博行為は、文字通り天に唾する行為であり、ファンの期待に背き、競技の高潔性を踏みにじるものです。こうした行為に対しては、厳正な処罰を持って対処すべきです。福田選手の賭博行為について、報道されている行為が事実であれば、彼は非難されるべきであり、その違反行為に相応の厳正な処分を受けるべきでしょう。

世論におもねって不合理な処分が多発した米国

ところで、今回私が筆を執ろうと思ったのは、ここ数年の米国スポーツ界で起こった不祥事への対応から、日本では恐らくまだあまり議論されることがなかった別の視座、問題意識を提供できたらと思ったためです。

近年、米国スポーツ界ではこんな不祥事がありました。

  • 2014年2月、米プロフットボールリーグ(NFL)のボルチモア・レイブンズに所属していたスター選手が婚約者(当時。翌月結婚)をカジノのエレベーターで殴り、NFLより無期限出場停止処分を受ける(球団は彼を解雇)。同選手は処分が重すぎるとして裁判所に提訴し、裁判所はこれを認めNFLによる処分を取り消す。球団からの解雇処分も取り消されたが、同選手はこれ以来どの球団とも契約を結ぶことができていない。
  • 2014年4月、全米プロバスケットボール協会NBA)のロサンゼルス・クリッパーズのオーナーの人種差別発言が公開され、NBAはこのオーナーを永久追放処分とし、球団売却を余儀なくされた。発言は、元愛人が彼の自宅で秘密裏に録音していたものだった(ロサンゼルス州では、合意を得ない録音は裁判での証拠能力を持たない)。
  • 2014年9月、NFLミネソタ・バイキングスに所属するスター選手が自分の子供に虐待を働いていたことが判明し(躾と称して木の枝で体罰を与えていた)、NFLからシーズンいっぱいの出場停止処分を受ける。同選手は処分が重すぎるとして調停を経て裁判所に提訴し、裁判所はNFLの調停判断を取り消した。その後、NFLと和解し競技に復帰。

これらに共通していたのは、強力な世論の後押しを受ける形でリーグが選手に厳しい罰則を下すも、その後裁判になった際に、多くのケースで(クリッパーズの件はまだ係争中)、世論におもねり、罪刑法定主義の思想(どのような行為が犯罪とされ、いかなる刑罰が科せられるか、犯罪と刑罰の具体的内容が事前の立法によって規定されていなければならないという刑法上の原則。刑罰権の濫用から市民の権利を保障するための近代市民法の基本原則と解される)を超えて著しく厳しいペナルティを下したリーグの処分は正当性がないと裁判所から判断されている点です。誤解を恐れずに分かりやすく言えば、適切な処分を超えた“魔女狩り”的な動きを抑止したのです。

米国では、人種差別や虐待に対しては非常に厳しい目が向けられます。しかし、これが行き過ぎると、批判を恐れて変に「空気を読む」ような雰囲気が生まれ、無難(Politically Correct)な発言・対応で世の中が覆われることになります。

スポーツビジネスはファンサービスが命の客商売ですから、世論におもねった厳しい処分を下しやすいのは理解できます。問題は、被疑者に対して不合理に厳しい処分が下った際、それをタイムリーに回復できる手続きが不足している点です。特に、特定個人の行為が社会的な批判の的になり、社会全体としてそれを糾弾するような流れにある時、これが顕著です。

連帯責任の発想が根強い日本のスポーツ界では、個人の行為と責任の範囲が曖昧になりがちで、合理的な範囲を超えた厳しい処罰が出される傾向にあると感じています(例えば、補欠の下級生の不正行為により、チーム全体の大会出場が見合されるなど)。

野球賭博に対する罰則の日米比較

私は福田選手の肩を持つつもりは全くありません。繰り返しますが、彼の行為が報道されている通りなら、彼は非難されるべきであり、相応の厳しい処罰を受けるべきです。しかし、一方で、近年の米国で起こった不祥事のその後を知っている者として、罪刑法定主義の思想が忘れ去られる懸念も同時に覚えるのです。

参考までに、米メジャーリーグMLB)の野球賭博に対する罰則規定を見てみましょう。以下が該当する部分(Major League Rule 21 Misconduct (d))です(日本語訳は筆者)。

(d) 野球賭博

選手、審判、球団幹部や職員らがいかなる野球の試合に対していかなる金額の賭け事をしても、賭けをした者がその試合に参加する職務を負わない場合、1年間の出場停止処分を受ける

選手、審判、球団・リーグ幹部や職員らがいかなる野球の試合に対していかなる金額の賭け事をしても、賭けをした者がその試合に参加する職務を負う場合、永久追放処分を受ける

(d) BETTING ON BALL GAMES

Any player, umpire, or club official or employee, who shall bet any sum whatsoever upon any baseball game in connection with which the bettor has no duty to perform shall be declared ineligible for one year.

Any player, umpire, or club or league official or employee, who shall bet any sum whatsoever upon any baseball game in connection with which the bettor has a duty to perform shall be declared permanently ineligible.

MLBの場合、状況により1年間の出場停止処分になるケースと永久追放処分になるケースがありますが、それを分けるのは「八百長を働きうる構図の有無」です。端的に言えば、賭けをした試合に出場しうる立場にあったかどうかです。実際に八百長を行ったかどうかは問題ではありません。なぜなら、選手が八百長を行い得る立場に身を置いた瞬間に、「結果の予測不確実性」が崩れるからです。

蛇足かもしれませんが、今回の福田選手のケースをMLBに当てはめると、彼は当時二軍にいたわけですから、「賭けをした試合に参加する職務を負わない」と判断され、1年間の出場停止処分になるはずです。

では、日本のプロ野球協約ではどうなっているのでしょうか?以下が該当する条文です(第177条、第180条)。状況的に、福田選手は最も軽くて1年間の失格処分、最も重くて永久失格処分になる可能性があります。

第177条 (不正行為)

選手、監督、コーチ、又は球団、この組織の役職員その他この組織に属する個人が、次の不正行為をした場合、コミッショナーは、該当する者を永久失格処分とし、以後、この組織内のいかなる職務につくことも禁止される

(1)所属球団のチームの試合において、故意に敗れ、又は敗れることを試み、あるいは勝つための最善の努力を怠る等の敗退行為をすること

(2)前号の敗退行為を他の者と通謀すること

(3)試合に勝つために果たした役割、又は果たしたと見做される役割に対する報酬として、他の球団の選手、監督、コーチに金品等を与えること、及び金品等を与えることを申し込むこと

(4)試合に勝つための役割を果たした者又は果たしたと見做される者が、その役割に対する報酬として金品等を強要し、あるいはこれを受け取ること

(5)作為的に試合の勝敗を左右する行動をした審判員、又は行動をしたと見做される審判員に対し、その報酬として金品等を与えること、又はこのような申し入れをすること

(6)所属球団が直接関与する試合について賭をすること

第180条 (賭博行為の禁止及び暴力団員等との交際禁止)

選手、監督、コーチ、又は球団、この組織の役職員その他この組織に属する個人が、次の行為をした場合、コミッショナーは、該当する者を1年間の失格処分、又は無期の失格処分とする

(1)野球賭博常習者と交際し、又は行動を共にし、これらの者との間で、金品の授受、饗応、その他いっさいの利益を収受し若しくは供与し、要求し、申込み又は約束すること

(2)所属球団が直接関与しない試合、又は出場しない試合について賭けをすること

(3)暴力団、あるいは暴力団と関係が認められる団体の構成員又は関係者、その他の反社会的勢力(以下「暴力団員等」という。)と交際し、又は行動を共にし、これらの者との間で、金品の授受、饗応、その他いっさいの利益を収受又は供与し、要求又は申込み、約束すること

解釈のポイントは?

素直に読めば、177条は八百長の構図を伴う野球賭博、180条はそれを伴わない野球賭博と解釈できるように思います。福田選手の場合、第180条に抵触するのは明白ですので、その処分の重さ(1年間の失格処分か、無期の失格処分)と、第177条に抵触するかどうか(抵触すれば永久失格処分)が争点になるものと思われます。

後者については、状況的に、177条(6)の「所属球団が直接関与する試合について賭をすること」の解釈がポイントになりそうです。前述のように、この条文は八百長の構図を伴う野球賭博を前提としているように読めるので、MLB風に言うなら「賭けをした試合に参加する職務を負っていること」が前提であるように解釈でき、その場合、二軍にいた福田選手は該当しないことになります。

しかし、ご覧のように曖昧な表記になっており、二軍にいてもジャイアンツが所属球団とも言えるわけですから、この条文に抵触するという解釈も可能でしょう。「賭けをした試合に参加する職務を負っていたかどうか」が処分の軽重を決めるポイントになっているMLBに比べると、非常に分かりにくい条文と言えます。

ただ、言うまでないことですが、日本のプロ野球界が全てについてMLBを手本にする必要はありません。ご存知のように、日本のプロ野球界は暴力団排除のために不退転の決意で臨んでおり、180条違反だけでも(MLBなら1年の出場停止処分の状況)、無期の失格処分とすることも可能です。今回のケースの対応にNPBとしての組織の見識が出る、と言えるかもしれません。

一方で、どこまでの行為が違反行為なのか曖昧な表記は、米国スポーツ界で問題視され始めている罪刑法定主義を超える不合理に厳しい処分を誘発する原因にもなるため、極力表現を改めた方が良いのではないかとも思います。

bylines.news.yahoo.co.jp