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TPP以外にも 日本が取り組む「メガFTA」にはどんなものがある? THE PAGE 2015/8/13 12:00

 

 

 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉の7月中の大筋合意が見送られたことで、日本が推進しようとしている他のメガFTA交渉への影響を懸念する声も出ています。メガFTAとは多国間の巨大な自由貿易協定のことで、世界中でTPPをはじめいくつもの交渉が進められていますが、日本が取り組むメガFTAには、TPPの他にどんなものがあるのでしょうか。

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[図解]日本が取り組む「メガFTA

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RCEP

 RCEP(東アジア地域包括的経済連携)は、TPPと同様にFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を目指しているメガFTAです。RCEPは人口では世界の49%、GDPでは29%を占めています。RCEPはASEAN+6(日中韓印豪NZ)の16カ国で2015年末妥結を目指して2013年から交渉をしています。RCEPは2011年にASEANが提案しました。2010年に米国が主導するTPPの交渉が始まり、東アジアの広域FTA交渉で主導権を失うことをASEANが恐れたためです。

 RCEPは中国が提案したASEAN+3(日中韓FTAと日本が提案したASEAN+6(日中韓印豪NZ)FTAを統合したFTAです。RCEPは「既存のASEAN+1FTAを相当改善した自由化レベル」を目指すとしています。しかし、自由化レベルはTPPよりも相当低くなる見込みです。これは、インドが高いレベルの自由化に抵抗しているためです。対象分野は包括的であり、TPPの交渉分野と比較すると労働、環境、規制の調和などを除き、ほぼ同じですが、国有企業の規制などTPPのような新しいルールを決めることはありません。

 RCEPが日本にとり重要なのは、中国、ASEAN、インドという新興の成長市場であるとともに世界の工場となっている国・地域が参加しているからです。日本の企業もこれらの国・地域に投資を行なっており、日本を含めてRCEP参加国の間でサプライチェーンを作っています。競争力の強化には効率的なサプライチェーンが必要であり、RCEPはそのための重要な手段になります。

 2050年には世界のGDPの51%がアジアとなると予測(アジア開発銀行)されています。このアジアはRCEP参加国と重なります。21世紀半ばにはRCEPは世界最大の経済規模のメガFTAになる見込みであり、日本の将来にとりTPPに劣らない重要性を持っています。RCEPの実現により、日本の実質GDPは1.10%増えると予測(川崎研一氏)されています。

 

日EU・FTA

 日本とEUのFTAは、2015年の大筋合意を目標に2013年に交渉が開始されました。人口では世界の9%と小さいですが、GDPでは30%を占めます。自動車、電機電子製品の日本の競合国である韓国は2012年にEUとFTAを結びました。韓国企業はEU輸出に際して関税を支払わなくてすむのに対し、日本製品には課税されるため日本企業は非常に不利になりました。そのため、日本はEUとのFTAを強く望んでいましたが、EUは消極的でした。日本ではEUが輸出する工業製品の7割は無税となっている一方で、日本のEU輸出の65%は課税されているためです。

 しかし、TPP交渉に日本が参加を検討し始めるとEUの姿勢が変わりました。日本がTPPに入ると日本市場でEU企業は米国企業に対して不利になるからです。日本はEUに対して自動車や電機電子製品の関税撤廃を要求し、EUは自動車、化学品、食品、医薬品、医療機器などの規格・基準などの非関税障壁撤廃・軽減と政府調達へのEU企業の参入を要求しています。なお、EUはワインや乳製品など食品・農産品の関税削減・撤廃も求めています。

 交渉分野は関税と非関税障壁だけでなく、サービス貿易、投資、知的財産権など20分野を対象としており、包括的なFTAです。自由化ではEUは92%の品目を10年間で自由化、日本は同じく88%を自由化することで合意した模様です。非関税障壁では、自動車の規格、鉄道分野の調達へのEU企業の参入などで進展があったとされています。今後は、EUが自動車・部品の関税削減にいつ応じるかがポイントになると言われています。

 日本での報道はTPPに偏り日EU・FTAは軽視されていますが、日EU・FTAは、非関税障壁という国内措置の撤廃を求めており、日本への影響はTPPに劣らないと言えます。日EU・FTAの実現による日本の実質GDPへの効果は、0.27%増と予測(内閣府)されています。

 

日中韓FTA

 日中韓FTAは、2003年から民間共同研究と産官学共同研究が行われ、2013年に交渉が始まりました。TPP交渉が開始されTPP主導で東アジアの貿易ルールが決まることに中国と韓国が焦りを抱いたことが理由となっています。

 日中韓は東アジアの人口の7割、GDPの8割を占める巨大な経済圏です。日中韓の相互の経済関係は非常に重要で、日本にとり中国は輸出で2位、輸入で1位、韓国は同じく4位と5位(2014年)の貿易相手国です。日本の経済界は両国とのFTAを強く要望しています。両国とも鉱工業品の関税が日本に比べ高く、とくに日本の対中輸出の7割に関税がかけられています。日中韓FTAができれば大きな効果が期待できます。これによる日本の実質GDPへの効果は0.74%増と予測(川崎研一氏)されています。日中韓FTAは、物品の貿易をはじめ、サービス、投資など広範な分野を対象に交渉を行うとしています。交渉はすでに7回行われています。

 韓国は、中国とのFTAを重視・優先しています。中韓FTAは2012年に交渉に合意、同年交渉が始まり、2014年の北京APEC時に実質的妥結を宣言し、2015年6月に署名しました。中韓FTAは包括的なFTAですが、自由化レベルはセンシティブ品目を例外としており、10年後の自由化率は中国が71.3%、韓国が79.2%と低いレベルです。日中韓FTAができないとRCEPもできません。このような低水準の自由化がRCEPの自由化交渉の足かせとなることが懸念されます。

 RCEP、日EU・FTA日中韓FTAは、すべてTPP交渉開始が引き金となり交渉が始まりました。TPPのインパクトの大きさを示すとともに3つのFTA交渉が相互に影響を与えあうことを意味しています。その意味でTPP交渉が合意できるかどうかがその他のメガFTA交渉にも大きく影響するでしょう。

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石川幸一(いしかわ・こういち)
亜細亜大学アジア研究所教授。国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員。ジェトロを経て2005年より現職。専門は、ASEANの経済統合、東アジアの経済統合。著書に「メガFTA時代の新通商戦略」共著、文眞堂、「ASEAN経済共同体と日本」共著、文眞堂など多数。