【ニュース まとめ】はるさめ君にゅーす!

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ピース又吉『火花』売れて良かったね 山本一郎 | 個人投資家 2015年8月13日 14時54分

 

 

山本一郎です。たまに小説を書いたり、ドラマのリサーチなどを委託いただいて手がけることがあるのですが、物事を最後までやり遂げる、頭の中のストーリーを読者に伝わるように最後まで書ききるというのは物凄く労力のかかることです。

で、そのお笑い芸人ピースの又吉直樹さんの『火花』がすばやく重版を重ねて209万部になったよ、ということでニュースになる一方で、月刊『創』の篠田博之さんがブームに疑念を呈しておられます。私自身も、出版業界における『火花』現象はデイリーニュースオンラインで記事にさせていただいてはおります。

 

皆、遠慮して言わないけど、『火花』が209万部ってどうなの?(ヤフーニュース個人 篠田博之 15/8/12)

 

ピース又吉『火花』200万部と干される書店界隈の仁義なき戦い|やまもといちろうコラム(デイリーニュースオンライン 15/8/5)

 

要するに何なのかと言えば、「良い文芸」と「売れる文芸」は同じであるべきかどうか、という命題であります。もっと突き詰めれば、文芸であるかさえも関係なく、「良い」ものは「売れる」のか、「売れる」ものが「良い」のか、というマーケティングの問題です。

ピース又吉さんの場合、正直なところ『火花』よりも個人的には別冊文芸春秋に寄せた『そろそろ帰ろかな』のほうが、又吉さんらしさや世界観が前面に出ていて面白く感じるわけです。文体に無理もないし、粗くても短編に書き切っている感があって好きです。

別冊文藝春秋(12年5月号)

また、著者を業界の「横」で見るならば、過去にも自叙伝・私小説の形でベストセラーになった麒麟・田村裕さんの『ホームレス中学生』や、劇団ひとり(川島章吾さん)の『陰日向に咲く』『青天の霹靂』といった作品も出ています。どれも、エンターテイメントで見るならば及第点どころか素晴らしい作品であって、面白い世界観に出会えたなあと思うわけです。

では、これらの作品が、たとえばピース又吉さんや麒麟田村さん、劇団ひとりという名前抜きで、ぽんと文芸誌の新人賞に出たとして選抜されるだろうか、と言われると、微妙なところはあるわけですよ。作品単体の評価で言うならば、芸人が多忙な仕事の片手間に構想を文章に仕上げるのとは異なり、作品を書きたくて文芸に特化している人のほうが、良い文章を書いている確率は当然高いんですから。

ただ、そこには文芸も作品であると同時に商品であり、売れてこそ、という世界があるのも事実だと思います。しかも、現状で文芸のサークルやFACEBOOKグループでピース又吉さんの『火花』はほぼ99%酷評されています。私がうっかり「まあ、売れてよかったんじゃね」とでも書こうものなら、商業主義批判を友人から多数喰らうわけでありまして。

確かに、ピース又吉さんの『火花』が売れたからと言って、他の文芸も売れるかといわれると微妙なところはあります。それは、著者本人だけでなく出版業界全体の問題だろうと思いますが、一方で、この『火花』がなかったら他の文芸が売れるのかを考える必要があるんですよね。間違いなく、何十万人もがこの『火花』を買い求めるためにふだんは行かない書店に足を向けているわけで、そのついでに、雑誌でも他の趣味本でも買っていってくれていれば、それだけで御の字なんじゃないでしょうか。

それこそ、売れた『もしドラ』しかり『ハリーポッター』も『進撃の巨人』も、各ジャンルの再興や裾野の拡大には役に立ったと思います。「売れるものにケチをつけるな」ということではなく、売れるものを見て、ハズレに時間とお金を投資したくない消費者心理をよく理解しておくべきだという話です。

この手の世界は、以前フジロック批評でもあったようですが、ブシロード木谷高明社長が新日本プロレスの再興にあたって喝破した「すべてのジャンルはマニアが潰す」が通底するものだと思います。コアなファンや、プロ化した書籍編集の世界が、ジャンルの間口を狭め敷居を高くした結果、入門したい多くの「にわか」を門前払いしてしまう現象が、ここにもあったんじゃないかと思います。

買収後売り上げが激増 プロレス人気再燃を新日オーナー語る(ニュースポストセブン 14/1/2)

このあたりはもう価値観の世界なので、誰が正しく誰が間違っていると言う話でもなく、篠田さんの主張も理解できるところではあるので、やはり一つひとつ現象をどう消化していくのがいいのか議論したほうがいいんじゃないかと思う次第です。


山本一郎
個人投資家
投資業務とコンテンツ開発が仕事のメイン、独立17年め。イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社代表取締役。仕事と家庭を両立させながら、40歳になんなんとする人生の節目を感じつつ一歩ずつ坂道を登って生きたいと思います。

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